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「はー、もう、おねがーい」

 

今年は沖縄の本土復帰50周年ということで、沖縄がフューチャーされている。NHKの朝ドラ「ちむどんどん」もその一つである。ドラマの展開にいささかひっかかりを感じながらも見続けている。それはともかく、「ちむどんどん」では、共通語の形だけれど、使い方が共通語とは違う表現が出てくる。主人公の比嘉暢子が驚いたときに頻発する「真剣!(マジで!)」とか、比嘉家の兄弟たちが子どもころに兄弟ゲンカをする場面で相手を批難するときに叫ぶ「いんちき!(ずるい!)」とか。自分も子どものころ、こういう表現を使っていたなぁとちょっとした郷愁を感じる今日この頃。

みなさん初めまして。又吉里美と申します。沖縄のことばを研究しています。

 

ところで、いきなりですが、ここで1つ質問です。

コップを割ったとき、どんな言葉を発しますか?

 

「あっ!」「あーあ!」「マジかぁ」「割っちゃった」など、場面やそのコップに対する感情などによっていろんな表現をすると思いますが、こういうときに私が子どものころよく使っていた表現があります。「おねがーい(お願い)」です。この「おねがーい(お願い)」も共通語の形だけれど、使い方が共通語とは違う、沖縄のことばとして地域独自の意味を持った表現でしょう。

 

手を滑らせてコップ割ったとき。

「はー、もう、おねがーい」

石につまづいてこけたとき。

「はー、もう、おねがーい」

テレビが壊れて映らないとき。

「はー、もう、おねがーい」

 

落胆したり、失敗したり、物事がうまく進まないとき、朝ドラの暢子並に「真剣!」ならぬ「おねがーい」を頻発したのである。誰に何をお願いしているのか?などとツッコまないでほしい。とにかく、「おねがーい」と発することで落胆や失望や憤りといった感情の表出と沈静をはかっているのである(たぶん)。上の例は、自分のミスや不可抗力などによる落胆だったり失望だったり憤りだったりで、その感情を他者にぶつけることは本質的にはできない。それを「他者」を想定して落胆や失望や憤りを発散させる、何と優れた感情昇華表現!これは、もう日本全国に広めないとーーー!

 

月日は流れ、あれから30(綾小路きみまろ風に脳内再生してね(^_-)-☆)沖縄でも「おねがーい」という表現を聞かなくなった。沖縄のことばがたどりつつあるように消滅してしまったのか、ちょっとした流行語だったのか、子どもの頃限定のことばだったのか。いや、どこかの地域では今でも「おねがーい」と発せられているかもしれない。

 

又吉里美(岡山大学教育学部・准教授)