次は近江神宮前です 近江神宮前LHHHHHHHH 京阪電車車内アナウンス
スマホの付箋アプリに、雑多なメモを書き残す癖があります。その日買わなければいけないもの、気になった店や品物の名前、それから、気になった日本語のこと。
冒頭に載せたのは、そのメモの中に残っていた一つです。車内アナウンスで駅名が流れてきたときに、何かおもしろいアクセントだなと思って書いておいたのでした。
Lは低く発音された拍、Hは高く発音された拍で、普通なら「です」がつくときは「おうみ-じんぐう-まえLHH-HHHH-HL」とでもなりそう(わかりやすいようにハイフンで区切りました)なものですが、ずっと高いままでした。
アクセントについては、他にも「ファイルみたいなんなかった?(母)HHHHLL」というメモがあったり、「はるなつあきふゆHLHLHLHL東京世田谷」とあったりします。
1つ目は大阪生まれ大阪育ち大阪在住の私の母が、「ファイルみたい」という部分をこう言ったのがおもしろいと思って書いたもの、2つ目は「春夏秋冬」は一つずつ区切って読むと「はるHL、なつLH、あきHL、ふゆLH」となるのが、続けて読むと同じアクセントにまとまるという話を東京で聞いて、不思議だなと思ってメモしたものです。
私が研究対象としているアクセントは、声で発せられることばにしかあらわれないものですが、だからこそ、いろいろなヴァリエーションが存在します。ふとしたとき、普段と違う発音で言ってしまうこともあります。その不安定さが何ともおもしろくて、研究を続けています。
さて、これらのメモは、研究になるかどうかはわからない、種の状態です。メモするきっかけは「私の感覚とは違うなー」というところなのですが、それでは客観的な調査にもなりません。
ここから「研究」に繋げようと思うと、まずはアクセントが記載された辞典を引くことになります。もっとも有名なのは、『NHK日本語発音アクセント新辞典』(NHK放送文化研究所、2016年)でしょうか。それから、『新明解日本語アクセント辞典』(第2版新装版、三省堂、2025年)もあります。ほかにもたくさんあります。
私のような京阪地域のアクセント研究者は、とりあえず『日本国語大辞典』(第2版、小学館、2000-2002年)を引いてみたりもします。ここには、項目にもよりますが、標準・京都のアクセントと、アクセントの歴史が記されています。
しかし、これだけでは上記のメモについてはほとんど何もわかりません。そこで次に調べてみるのが、先行研究と呼ばれる論文や本たちです。膨大にあるので、一つひとつ読んでは「これは違った」「ここは関係ありそう」などということをみていきます。
それから、実際に聞き取り調査をおこなうことももちろんあります。「これちょっと発音してください」というのを、発音してくれそうな人を見つけてお願いしていきます。(写真は和歌山県和歌山市加太で調査をおこなったときに撮ったもの。漁港に行くことも多いです。)
そして、そのアクセントが臨時的なものなのか、それとも固定的にあらわれるのか、個人差なのか世代差なのか地域差なのかなどを、考えていくのです。
それぞれのアクセントはとても小さな現象です。でも、その現象が意外なところに繋がっていたりします。そういう小さな気づきから繋がっていく世界の深さが、研究の醍醐味であるとも言えるでしょう。
とはいえ、気づくことの難しさはきっとありますね。「そう言われてもどこに注目すればよいのか?」と疑問に思う方がいるかもしれません。
これは指導する大学生にもよく伝えることですが、まずは自分の話す言葉について、あれこれ観察してみてください。それと、聞こえてきた言葉の違いを比較するのはいかがでしょう。あなたの言葉はどんな音ですか? それは人とどう違っていますか?
みなさんの研究の種が見つかること、それが芽吹くことを、心待ちにしています。
山岡 華菜子(跡見学園女子大学・講師)