現在の学校教育では、探究活動が非常に重要視されています。現在私が所属している大学の附属高等学校でも、高校2年生が探究活動に取り組んでおり、私も大学側の協力者を務めています。今このブログを読んでいる中高生の皆さんの中にも、学校で何か探究活動をすることになったけれど、何をテーマにして取り組んだらいいか分からないと悩み、この中高生日本語研究コンテストのブログ記事から何かヒントが得られないかと思っている人もいるのではないでしょうか。
そこで、私が言葉のSF(すこしふしぎ)を体験した話をしたいと思います。皆さんの参考になるところがあれば幸いです。
大学3年生の教育実習時、私は小学3年生のクラスに配属されました。大学では国語科に所属していたので、国語の授業を担当することになりました。
指定された単元は、「こそあど言葉」です。例えば、目の前という近い場所にあるペンを指し示す時は「これ」、やや離れた中くらいの場所にあるペンを指し示す時は「それ」、遠い場所にあるペンを指し示す時は「あれ」、誰かから「ペン」を取ってと尋ねられた際、そのペンが分からない時は、「どれ」と言いますね。このように距離の遠近に従い、語頭の音を取り出し並べると「こそあど」になります。興味深いことに、場所を指し示す場合は「ここ」「そこ」「あそこ」「どこ」、方向を指し示す場合は「こっち」「そっち」「あっち」「どっち」、性質を指し示す場合は「こんな」「そんな」「あんな」「どんな」のように、日本語では、何らかの対象を指し示す際には、「こそあど」から始まる語で体系的に整理することができるのです。これが「こそあど言葉」です。
さて、小学校3年生という発達段階に照らし合わせると、一般的な単元目標は、「指し示す言葉は、『こ・そ・あ・ど(近・中・遠・不定)』の順序で整理できることに気づき、それを適切に使い分けることができる」、といったものだと思います。これは、指示詞研究では、直示(現場指示)と呼ばれる用法を取り扱っていることになります。とても簡単な内容ではないでしょうか、教えるほどの価値もなさそうに思えてしまいます。
ところが、当時、教育実習時に使用した教科書には、こそあど言葉の単元の前に出てきた説明文中に出てくる「それ」が何を指しているか考えよう、という内容の学習課題(学習の手引き)がありました。
私は非常に困りました。上記の「こそあど言葉」の知識を用いると、「それ」は、ちょっと離れた対象を指し示す時に用いるはずです。しかし実際には、例1・2のように、直前に出てきた、言い換えると、近い距離にある対象を指し示す時に「こ」ではなく、「そ」から始まる語を用いることができるのです。特に例2は、同じ意味で「これ」と言い換えることができません。
例1 ○○さんは一生懸命勉強している。それが大事だ。
例2 電車が来たら、それに乗っていこう。
児童から「なぜ近いところにあるのに、『これ』ではなく『それ』を使うのですか」と聞かれた場合、一体どう答えればよいでしょうか(ぜひ考えてみてください)。
後にこのような用法は、指示詞の先行研究を色々調べていくことで、文脈照応(文脈指示)と呼ばれる用法であること、「こそあど言葉」は、「近・中・遠・不定」という素朴な捉え方のみでは整理できないものであることが分かってきましたが、当時の私には、どのように授業を組み立てればよいのか非常に悩み、結局どう乗り切ったのか、覚えていません。ただ、「こそあど言葉」のような、一見単純に思える言語現象でも、色々な事例を考えていくことで、そこには豊かな広がりがあり、多角的な視点で捉えていく必要があることに気づかされました。この経験は、私が指示詞と国語科教育を研究対象とする研究者となる道を指し示してくれました。
以上のように、ある知識を基に考えた時に生じる違和感は、まさに探究のタネといえます。そしてそのタネは、教科書の中にも潜んでいます。言葉を対象とした探究活動をしたい人は、早速、国語の教科書を隅々までよく読んでみましょう。そこには、納得できない部分や詳しく説明してほしい部分が、きっとあるはずです。
教科書は、多くの編集者が、皆さんの様々な力を伸ばすために工夫して作成されたものですが、一般的な発達段階に応じて作成していますので、基本的な部分を取り上げています。だからこそ、皆さんには、基本的な部分はしっかり押さえつつ、そこに潜む言葉のSFを探り当て、掘り出してほしいと思います。そしてこの後が重要なのですが、その過程や結果は、ぜひ中高生日本語研究コンテストに応募してください。
一緒に言葉のSFを楽しみましょう!
清田 朗裕(愛媛大学・准教授)