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文字を使って「話す」? ―SNSのコミュニケーションを考えてみよう―

 

 突然ですが、皆さん、「SNS疲れ」はありませんか?

 

 大学生にこの質問をすると、教室の三分の一くらいの学生が手を挙げます。この「SNS疲れ」にはいろいろな要因があると思いますが、その一つとして、文字を使って「話し」ているからということが挙げられると思います。ちょっとわかりにくいですね。例えば、次の例を見てください。これは、大学生の友人同士のAさんとBさんの実際のLINEです。

 

例1)【待ち合わせに遅れてしまう友人とのLINEで】

1A:待ち合わせ遅れる! 本当にごめん🙇🏻‍♀️

2B:いいよ

3A:本当にごめんね🙇🏻‍♀️

4B:はい

 

 皆さんは、Bさんはどんな気持ちで返信していたと思いますか? ちなみに、Aさんは、絵文字なしの短い返信を見て、Bさんが怒っていると思ったらしく、何度も謝罪をしています。しかし、実際には、Bさんは怒っていたわけではなく、この時、他の人とも同時にLINEでやり取りをしていたから簡潔に返信をしただけだったというのです。他にも、こんな例がありました。

 

例2)友人とのLINEで、なるほど。と思ったので、「へ~」と返信したら、「なんか冷たくない?」と返信された。

 

 このように、LINEなどのSNSでは、トーク相手の感情を読み違えてしまうことがあります。このようなことは皆さんにとっては「あるある」だと思いますが、では、なぜこのような誤解が起こるのでしょうか? ここでは、日本語の「文字」と「音声」という観点から考えてみたいと思います。

 

 日本語に限らず、文字を有する言語のコミュニケーション能力として、よく「聞く・話す・読む・書く」の4技能というのが挙げられます。皆さんも英語の授業などで耳にする機会があるのではないでしょうか。「聞く・話す」は音声によるコミュニケーション、「読む・書く」は文字によるコミュニケーションに必要な能力とされています。

 

 皆さんの中には、「文字で書かれた日本語は音読できるし、音声で話された日本語も書き取りができるから、どちらの日本語も同じだろう」と思う人がいるかもしれません。しかし、実態を見てみると、必ずしも同じとは言えないことが見えてきます。

 

 音声と文字とのコミュニケーションには大小さまざまな違いがありますが、今回は2点に絞って検討してみましょう。ここでは、音声と文字の特徴を際立たせるために、音声のコミュニケーションを対面での会話、文字でのコミュニケーションを手紙として考えていきます。

 

 一つ目は、「日本語(ことば)以外の情報が多く含まれるかどうか」です。

 対面で会話をする場合は、日本語の音声だけで相手の伝えたいことを理解しているわけではなく、表情やジェスチャー、声色など、様々な言葉以外の情報とともに理解しています。同じように、何かを伝えたいときは、日本語の音声だけで伝えるのではなく、やはり表情やジェスチャー、声色など、さまざまなことば以外の情報とともに表現しています。

 

 それに対して、手紙の場合は、ほぼ日本語の文字だけで相手の伝えたいことを理解しなければなりません。対面の会話にあった表情やジェスチャー、声色などがなくなってしまうからです(文字が大きく書かれている、丁寧に書かれているなどで相手の感情を理解することもできるとは思いますが、対面ほど情報は豊かではありません)。同じように、何かを伝えたいときは、表情や声色などは使えず、ことばだけで表現しなければなりません。

 

 つまり、音声はことば以外の情報が豊かであるのに対して、文字はことば以外の情報が乏しいということになります。はじめに挙げた例1や例2の誤解は、文字によって、ことば以外の表情や声色といった情報がなくなってしまうことで生じていると考えることができます。

 

 二つ目は、「日本語で伝えたいことを一人で表現するか複数で表現するか」です。

 ここでは、わかりやすさのために先に手紙の場合を考えます。手紙の場合は、自分が伝えたいことを一人で落ち着いて時間をかけて考えることができますし、さらに書いたものを推敲することもできます。つまり、一人で伝えたいことをじっくり考えて表現することができます。

 

 それに対して、対面の会話の場合は、手紙に比べて自分の伝えたいことをじっくり考える時間はありません。話している最中に相手が割り込んできて、伝えたいことが伝えられなくなってしまうということもありますし、逆に、自分が考えていたことを相手が先取りして言ってくれたりすることもあります。そして、会話を続けていくためには、会話している二人がお互いの言っていることを理解する必要があります。つまり、二人で相手の反応を確認しながら時間的制約の中で表現と理解を繰り返していくことになります。

 

 やや強引にまとめると、文字は一人で自分の裁量でまとまった情報を表現することができるのに対して、音声は一人で表現するのではなく、相手と一緒に表現と理解を繰り返しながら会話をつくっていくということができます。

 

 特に例1の誤解は、この2つ目の特徴が関係していると思われます。もし、Aさんがただ「謝罪」を伝えたいのであれば、「謝罪の手紙」のように、ただ謝罪のトークを送るだけでも問題ないと思います。しかし、LINEは文字でのコミュニケーションではありますが、相手がすぐに反応することができるため「会話」っぽくなってしまっています。

 

 どういうことかというと、Aさんがただ「謝罪を伝える」というだけで終われず、Bさんの反応によって「謝罪-ゆるす」という双方向のコミュニケーションが成立しているのです。そうすると、Aさんは、ただ謝罪をするというだけで終われず、今度はそれに対するBさんの「いいよ」という表現を理解しなければなりません。対面の会話であれば、それこそ表情や声色などを手掛かりにBさんの表現を理解することができますが、文字だけだとそれらの情報がないため、理解が困難になってしまうのです。

 

 ずいぶんと長くなってしまいましたが、これで、この文章の最初の「SNS疲れ」の要因の一つとして挙げた文字を使って「話し」ているということの意味が理解されたのではないでしょうか。

 

 このようなSNSのコミュニケーションは「打ち言葉」と称され、比較的新しい分野として研究が進んでいますが、このように、音声と文字の特徴からSNSのコミュニケーションを考えてみると、例えば、絵文字や顔文字が使われる理由や、近年法制化が議論されている「つながらない権利」についても考えることができると思います。

 

 一口に「日本語」といっても、用いる媒体によってもずいぶん異なることがわかると思いますし、こういった身近なところからも研究は始められます。日本語がどのように運用されているのかという研究も面白いと思いますので、ぜひ、興味のある人は取り組んでみてください。

 

宮澤 太聡(中京大学)

 

【参考文献】

石黒圭・橋本育洋(編)(2014)『話し言葉と書き言葉の接点』ひつじ書房