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「ジャンル」はことばの着替えである

 「ジャンル」と聞くと、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。音楽ならロック、ポップス、クラシック。映画ならホラー、恋愛、アクション。小説ならミステリー、ファンタジー、青春小説。私たちは普段、さまざまな作品を「ジャンル」に分けて楽しんでいます。

 

 では、ことばにもジャンルがあると言ったら、意外に感じるでしょうか。

 

 たとえば、友達に送るメッセージを考えてみましょう。「明日、何時に来る?」という短い文は、ごく自然な表現です。しかし、同じ内容を先生にメールで送るならどうでしょうか。「明日は何時頃伺えばよろしいでしょうか?」のように、少し改まった言い方になるかもしれません。さらに、学校から保護者に配られるプリントなら、「明日の集合時刻は午前九時です。」のように、もっと事務的で正確な表現になるでしょう。

 

 伝えている内容は似ています。それでも、ことばの形は大きく変わります。なぜでしょうか。それは、私たちが場面に応じて「どのような種類のことばづかいがふさわしいか」を判断しているからです。この「ことばの種類」や「文章・発話の型」を、日本語学ではジャンルとして考えることがあります。

 

 ジャンルは、単に文章を分類するためのラベルではありません。ジャンルには、その場面で何を目的とし、誰に向けて、どのような順序で、どのような表現を使うのかというルールのようなものがあります。たとえば、ニュース記事では、最初に大事な情報が置かれやすく、「いつ、どこで、だれが、何をしたのか」が重視されます。一方、物語では、登場人物や出来事を通して読者を引き込み、結末に向かって展開していきます。レシピなら、材料を示し、「切る」「混ぜる」「焼く」のような手順を順番に説明します。

 

 面白いのは、私たちがこうしたジャンルの特徴を、学校で細かく習わなくてもかなりの程度理解していることです。たとえば、友だちから突然「拝啓 ますますご清栄のこととお喜び申し上げます」とLINEが来たら、きっと笑ってしまうでしょう。反対に、会社への正式なメールが「明日行ける? よろしく!」だけだったら、失礼に感じられるかもしれません。文法的には間違っていなくても、ジャンルに合っていないことばは、どこか不自然に見えるのです。

 

 つまり、ことばを使うということは、ただ正しい文を作ることではありません。「今、自分はどのジャンルのことばを使っているのか」を選ぶことでもあります。友だちとの会話、授業中の発表、作文、SNSの投稿、志望理由書、レポート。それぞれにふさわしいことばの形があります。私たちは場面に応じて、ことばを着替えているのです。

 

 もちろん、ジャンルは固定されたものではありません。SNSの登場によって、短い文章、絵文字、ハッシュタグ、スタンプ等を組み合わせた新しい表現が広まりました。動画サイトのコメント欄やチャットでは、話しことばと書きことばが混ざったような表現も見られます。昔は「正式な文章」には入らなかった表現が、今では特定の場面で自然に使われています。ジャンルは社会の変化とともに変わっていくのです。

 

 だからこそ、ジャンルに注目すると、ことばの奥深さが見えてきます。「この文章はなぜニュースらしく見えるのか」「このメッセージはなぜ親しげに感じるのか」「この説明文はなぜわかりやすいのか」。そんな問いを持つことは、ことばの研究の入り口になります。

  

 ことばは、ただ意味を伝える道具ではありません。場面を作り、人間関係を表し、社会の変化を映し出す側面を持っています。ジャンルとは、そのことばの働きを見るための大切な手がかりなのです。次に文章を読んだりメッセージを書いたりするときには、ぜひ考えてみてください。今、自分はどんなジャンルのことばを使っているのだろう、と。

 

落合 哉人